5-1. 不確実性への備え:リスクの特定と定性的・定量的分析

プロジェクトは未来に向けて実行されるため、不確実性を伴います。プロジェクトマネジメントにおいて、不確実性は「リスク(Risk)」と呼ばれ、それは負の影響をもたらす「脅威(Threat)」だけでなく、正の影響をもたらす好機である「機会(Opportunity)」の両方を指します。

リスク・マネジメントの流れ

リスク管理は、以下のステップで進められます。

  1. リスクの特定 (Identify Risks): プロジェクトに影響を与え得るリスクを洗い出し、「リスク登録簿(Risk Register)」に記録する。
  2. 定性的リスク分析 (Qualitative Risk Analysis): リスクの「発生確率」と「影響度」を評価し、対応の優先順位を判定する。
  3. 定量的リスク分析 (Quantitative Risk Analysis): 優先順位の高いリスクについて、プロジェクト全体に対する数値的(金銭的・時間的)な影響度を測定する。

定性的リスク分析と定量的リスク分析の比較

2つのリスク分析手法の特徴をまとめた比較表です。

分析手法 主な目的 代表的な手法・ツール アウトプット・出力結果
定性的リスク分析 リスクの優先順位(高・中・低など)を決定すること。 確率・影響度(PI)マトリクス、リスクデータ品質評価。 優先順位付けされたリスク一覧、ウォッチリスト(低リスク用)。
定量的リスク分析 プロジェクト全体の目標(コスト・納期)に対する影響を客観的に数値化すること。 モンテカルロ・シミュレーション、デシジョンツリー分析、期待金額価値(EMV)分析。 「予算内に収まる確率は75%である」「リスクによる損失期待値は300万円」といった確率的数値。

確率・影響度マトリクス(PIマトリクス)

定性的リスク分析の代表的な手法が「確率・影響度マトリクス(PI Matrix / Probability and Impact Matrix)」です。

リスクごとに「発生確率(起こりやすさ)」と「発生時の影響度(被害・メリットの大きさ)」を1〜5などのスコアで評価し、その積(リスクスコア)に基づいて3段階に分類します。赤(高リスク)は優先的に対応し、黄(中リスク)は対応計画を策定、緑(低リスク)はウォッチリストに登録して監視します。

PIマトリクス

以下は、PIマトリクスのマッピングモデルです。右上に行くほど優先度の高い「高リスク(赤)」エリアになります。

高 (High) 中 (Mid) 低 (Low) 発生確率 → 黄 (中リスク) 赤 (高リスク) 赤 (高リスク) 緑 (低リスク) 黄 (中リスク) 赤 (高リスク) 緑 (低リスク) 緑 (低リスク) 黄 (中リスク) 軽微 (Low) 中等度 (Mid) 重大 (High) ← 影響度 (Impact) →
図 5-1:確率・影響度(PI)マトリクスによるリスク優先度評価

期待金額価値(EMV)分析

定量的リスク分析におけるシンプルな計算例が「期待金額価値(EMV:Expected Monetary Value)分析」です。

期待金額価値 (EMV) = 発生確率 (%) × 発生時の影響額 (円)

例えば、「サーバーが障害を起こし、復旧費と営業損失で1,000万円かかる確率が10%ある(脅威)」という場合、このリスクのEMVは「-100万円(1,000万円 × 10%)」となります。

逆に「新技術の導入がうまくいき、200万円のコスト削減につながる確率が40%ある(機会)」という場合のEMVは「+80万円(200万 × 40%)」です。

PMは、すべての主要リスクのEMVを合算し、プロジェクト予算に組み込むべき「予備費」の金額の目安とします。